ここ何年かの間、私はその年の予測を立てています。外れることも多いのですが、今年も発表しましょう。
2016年の結果を振り返る
2015年に私が立てた10の予測で、あたったのは3.5でした。では2016年の予測はどうだったでしょうか。結果を振り返ってみます。
1. 大手企業でハッキング被害が起こる
本当にとんでもないことに、1月からハッキング事件のニュースが相次ぎました。名指しは良くないかもしれませんが、Yahoo!、米国司法省、Snapchat、Verizon、 LinkedIn、Oracle、Dropboxなどです。ただし、これらはほんの一部で、おそらく安全だった企業を挙げるほうが簡単かもしれません。
悔しいことに、複雑な攻撃はめったにないのです。ほんのちょっとしたセキュリティの専門知識を使って注意すれば、ほとんど防げたはずなのです。
1予測中、あたりは1つ。この時点では的中率100%ですが、これはなかなか続かないでしょう。
2. 静的サイトが主流になる
Jekyll、Middleman、Metalsmithなどの静的サイトジェネレーター(SSG)の人気にいよいよ火が付くと予測していました。SSGは安全で拡張性に優れたフルページキャッシュのサイトを作成できるので、WordPressで運営されている多くのサイトにとってメリットに感じるはずででした。
SSGは標準的なHTMLを生成するので、SSGで作られたものかどうかはっきり見分けがつきません。SSGがどの程度使われているか評価するのは難しいです。注目すべき点はいくつかあるものの、SSGが主流になったとは言えません。SSGは現在、Web全体の27.3%を占めるWordPress市場に食い込んでいません(コンテンツ管理システムを利用しているサイトの58.5%がWordPressを使っている)。
2予測中、あたりは1つのままです。スコアらしくなってきました。
3. Chromeの市場シェアは横ばいに
これは明らかでした。どんなソフトであっても、永続的にユーザー数を伸ばし続けることはできません。年末までにChromeの市場シェアはデスクトップデバイスでは60%に満たないと正確に言い当てましたが、59%に近い数字だったので、予測は当たったことになります。
3予測中、あたりは2つとなりました!
4. Vivaldiが注目を集める
Vivaldi は賞賛に値する新しい強力なブラウザーです。使いやすかったOpera12を連想させるVivaldiは、元Opera社員によって開発されました。
この予測はとても漠然とした言い方ではありましたが、私の記事『Vivaldi 1.0 が正式リリース!新しいデフォルトブラウザーにいかが?』の影響がいくらかあるとしても、Vivaldiは注目を集めています。
4予測中、あたりは3つです。驚くほど順調な予測です!
5. アップルはSafariの不十分な点を補強する
SafariはiPhoneとiPadの唯一の標準ブラウザーにも関わらず、目に見えて競合から遅れをとっています。毎年のアップデートで精彩を欠く点を改善しようと努めてはいますが、Safariは依然振るわず、モバイルWebは停滞しています。
5予測中、あたりは3つのままです。ありがとう、アップル。
6. CSS Grid Layoutが利用可能になる
「あと一歩」が遠かった結果でした。CSS Grid LayoutはWebデザインに大変革をもたらすはずですが、リリースに長い時間がかかり、実験的な部分がまだ残っています。2017年こそ期待できます。
6予測中、あたりは3つのままです。でも、この予測は来年に向けて勝ち目があります!
7. デザインのモバイル化
デザインは明らかによりシンプルになっていますが、悪い傾向ではありません。なぜなら、モバイルからのインターネットアクセスは2016年12月にはデスクトップを追い越しているからです(『世界のブラウザーシェアに大異変!デスクトップとモバイルがついに逆転』参照)。そうは言っても、すべての人がモバイルにおけるシンプルなデザインの恩恵を受けているわけではありません。まだ、Webの大半のデザインは煩雑なままです。
評価としては0.5が妥当ですので、7予測中、あたりは3.5とします。
8. ページサイズが減少する
あまりにも楽観的過ぎでしたが、パフォーマンスへの注目が高まり、影響が出るだろうと考えていました。2016年のページサイズの平均は2,479KBで10%上昇しました。無意味に高解像度の写真や、あまり役立っていないソーシャルメディアの統合、押しつけがましい広告にまだ取りつかれているようです。
8予測中、あたりは3.5のままです。ページサイズは今後減るでしょうか?
9. WebAssemblyがニッチ技術になる
WebAssemblyは2015年に大きな話題になりました。WebAssemblyはソースを、よりシンプルで、高速処理できるバイトコードにコンパイルして、コンパクトなバイナリファイルにパッケージにすることで、JavaScriptのファイルサイズを減らします。利用するにはまだ少し早いですが、安定性が高まれば普及するはずです。
9予測中、あたりは4.5になりました。まだ5割近い確率を維持しています!
10. SEOが消える
私の予測の中でもっとも議論を巻き起こすものでした。SEOは第三世代に入っています。
- 1995年から21世紀の初めにかけて、ブラックハットが流行した。SEOといえばキーワードを繰り返し使うことや隠しテキストで検索エンジンをだますことだった
- Googleは関連性を評価するハイパーリンクを使ったページランクアルゴリズムを導入し、不正ができないようになった
- Googleのアルゴリズムが改良されてアルゴリズム向けのメソッドが通じなくなり、この数年で、読みたくなるような良いコンテンツを書くことこそが唯一の保証されたソリューションになった
目立つタグにキーワードを入れたり、サイトマップの作成やユーザー動向を監視するなど技術的な方法はいくつかありますが、その効果は薄くなっています。ソーシャルメディアに偽情報が激増したのは、SEO業界の影響です。Googleを簡単にだますことはできなくなりましたが、ユーザーはまた別です……。
顧客のWebサイトに、高値でSEOの秘策を提供する時代は終わりました。賛同できない人も多々いると思いますが、0.5点をつけます。
10予測中、あたりの合計は5つです。悪くない結果でしょう!
2017年のWebを予測する
いよいよ2017年の予測に入ります。私の予測を信じてなにか金銭的損失や評価が下がることがあっても、責任はとれませんからね!
1. Web接続は引き続きモバイルがデスクトップを上回る
モバイルとデスクトップによるWeb利用の割合は2016年12月に同じになりました(『世界のブラウザーシェアに大異変!デスクトップとモバイルがついに逆転』参照)。多くの人が想定していた以上に時間がかかりましたが、モバイルの成長は続くでしょう。なぜなら、PCがまだ普及していない場所で、モバイルが破壊的技術になっているからです。アジアやアフリカの何十億もの人びとが、欧米諸国ではありえないような手段でスマートフォンを片手にビジネスをしています。
モバイルアクセスは2017年末までに60%近くに達するでしょう。
2. モバイルファーストがモバイルオンリーになる
ユーザーの大多数がモバイルデバイスからアクセスしているのに、デスクトップ用にデザインする必要があるでしょうか。レスポンシブWebデザインは今後も重要ですが、デスクトップエクスペリエンスのために大幅に変える必要はありません。分かりやすさがパフォーマンスをよくして、ユーザー体験の向上につながるはずです。ただ、ページサイズは減らないでしょう。
3. Grid Layoutが今年こそ利用可能に!
皮肉なことに、複雑なデスクトップデザインのWebサイトが減っていくのと同時に、CSS Grid Layoutが広くサポートされるようになるでしょう。
4. プログレッシブWebアプリの台頭
2017年にテクノロジーを1つ習得するならば、プログレッシブWebアプリ(PWA)をチェックしてください。PWAはWebサイトやアプリをたった数時間で、Webとネイティブアプリの両方のメリットを兼ね備えたものにできます。
- URLデプロイメント、ディスカバリー、インストールが簡単
- ホーム画面にアイコンを表示できるが、デバイスリソースはほとんど不要
- カスタムのスプラッシュ画面で迅速に起動
- 即座にサンドボックス化して実行
- ローカルとクラウドベースのストレージがあり同期できる
- オフライン機能
アップルがPWAをサポートする保証はありませんが、心配いりません。オフラインでは実行できなくても、Safariでアプリを動かせます。
もっと詳しく知りたい人は、Dev.Operaの記事『Progressive Web Apps: The definitive collection of resources』とGoogleのPWAガイドを参照してください。
5. ネイティブアプリがなくなる
Webがネイティブをエミュレートできるなら、OS専用のアプリを作る意味はあるのでしょうか。AppStoreが一晩にしてなくなることはありませんが、多くの企業がPWAに移行すると考えられます。売り上げの30%を徴収するアップルやグーグルを通さずに、たとえヌード画像などであっても、アプリ内で使えるようになります。
6. バーチャルリアリティはニッチ技術になる
バーチャルリアリティは旬の話題で、Oculus Rift、HTC Vine、Sony Playstation、そのほかたくさんのCardboardアプリ対応のスマートフォンアダプターが注目を集めようとせめぎ合っています。WebVRは実験的なJavaScript APIで、ブラウザー経由でこれらのデバイスにアクセスできます。
VRは盛り上がりを見せていますが、あまりに非現実的で没入型なので、日常体験にならないという課題が残っています。主にVRテクノロジーを採用するのは、ゲームよりも大人向けエンターテイメント産業でしょう。Webサイトでバーチャルコンテンツを見るためにヘッドセットが必要になることはほとんどなくなるでしょう。
7. 拡張現実は順調
むしろ、拡張現実(AR)はもっと盛り上がると予測します。スマートフォンの画面オーバーレイは、旅行者やポケモンGoにはまっている人にとって欠かせません。車載システムやマイクロソフトのHololensは2017年中に広まるでしょう。これらが成功して、グーグルもGlassプロジェクトの復活に力を入れることを期待しています。
8. ブラウザー市場は現状維持
Chrome優位のまま2017年中には大きな変化はなく、競合ブラウザーは悪戦苦闘するでしょう。Firefoxは10%超えでとどまり、IEユーザーの多くがWindowsのアップグレードのタイミングでEdgeに移行するでしょう。SafariはiPhoneとiPadの販売に支えられますが、アップルの今後の見通しが明るいとは言えません。
今年のBrowserトレンドの記事には期待しないでください。
9. フレームワークが変わる
いまどのようなフレームワークを使っていても、2017年にはなにかしらより良いものが出てくるでしょう。変化の激しいJavaScriptの世界では、2015年にAngularが注目を集めたあと、2016年にはReactがとって代わり、2017年にはVue.jsやSvelteが話題になりそうです。
フレームワークの大多数は、いまあるWebの課題をベースに機能するようデザインされています。つまり、必ずしも新たに出てくる要件を満たせるとは限らないということです。フレームワークはぜひ使ってください。ただし、すべてのタスクに最適なソリューションにはなり得ないこと、フレームワークの寿命は限られていることを認識してください。
10. 暗号化が広告ブロックのように普及する
広告ブロックのテクノロジーは1990年代後半から使われてきましたが、一般に普及し始めたたのはここ数年前からです。ハッキング事件が増えて、政府や大企業に対しても不信感が広がっていることから、暗号化のソフトやサービスの需要も同様の変遷をたどるでしょう。
- ブラウザーの警告が強まり、HTTPサイトへのアクセスを拒否する
- パスワード管理ツールを検討するユーザーが増える
- 2段階もしくは、パスワードレス認証を実行するWebアプリケーションが増える
- サービス供給元とは異なる、暗号化されたオフラインストレージやクラウドベースストレージが提供される
- バーチャルプライベートネットワークとTORの実用性が高まる
この動きを好まない人たちもいると思います。隠すものがない人たちにとっては暗号化は不要ですが、隠すものがないということと、すべてを見せることは同じではありません。今後数年は興味深い動きになりそうです。
(原文:10 Web Predictions for 2017)
[翻訳:和田麻紀子/編集:Livit]