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チャットボットのUXデザインに生かせる「UIデザイナー」のスキルと発想

2016年07月12日 23時00分更新

文●Alan Dargan

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チャットボットの会話とデザイン。一見すると何の関係もなさそうですが、「会話がユーザーとのインターフェイスになる」と考えれば、立派なUIのデザイン。ビジュアルだけがデザイナーの仕事ではなくなる未来が近づいているようです。

ピザを注文したいとき、いつものように「ピザが欲しい」と思ってアプリを開く代わりに、メッセージアプリを起動してメッセージを送信。メッセージの受け手はあなたの好みを知っていて、早くピザを食べたがっていることも感じ取ります。同じ日のこと。あなたはピザを注文する前に「『X-Men』の映画チケットを2枚と会場への車を手配して」とも頼みました。

——いずれの会話も、ピクセルパーフェクトなUIには依存していません。その代わり、ベースとなるサービスは、同じメッセージアプリを利用しています。UXの視覚的な要素は少なくなり、メッセージに応じて反応するように準備されているボットが機能する、会話型のインタラクションが中心となるUXです。

「デザイン」は大きくなり続ける

Facebook Mx.aiのような人工知能の個人支援サービスは、すでに冒頭のようなことを現実にしています。Slackが提供するボットのHowdyは、音声かタイプされたチャットでチームの昼食の注文や会議の調整を助けます。

Google Nowは2011年から開発されていますが、最近発表されたGoogle Assistantの狙いは、ユーザーがインターフェイスではなく最終目的に焦点を当てる、「環境体験」を作り出すことです。

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バーチャルアシスタント:x.aiとFacebook M

音声または入力されたチャットで、チームの昼食の注文や会議の調整を助けることだけでも、デザイナーは言語学と脚本書きの知識を一体化する高い技能を必要とされることが分かります。チャットがすべてのコンテキストにもっとも有効とは限りません。(4つの異なるピザのトッピングを選ぶように)変化に富んだ状況下では、視覚的なインターフェイスがより適している傾向にあります。一方で冒頭のような状況では、アプリを開いて選ぶよりは、頼んでしまった方が早いのです。

デザインを構成する要素はいままでの考えをはるかに越え、デザイナーの任務はビジュアルから広がっています。むしろ自分たちをデザイナーと認識する人の数は増えていくでしょう。業界の成熟とともに専門化が進み、「Webデザイナー」のように専門性が見えない肩書は名乗れなくなってきています。

ペルソナはユーザーのためだけではない

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それでは、チャットUIをデザインする上で何を考慮すれば良いのでしょうか? 第一に、チャットを必ずしも機械的ではなく、人間のように考えることです。

インタラクションデザインの概念や戦略は、ベージュの箱の前に座って、マウスでスクリーンの中のポインターを動かしながらコンピュータの操作に携わったときから、考えられてきました。デスクトップと称する不思議な機械(フォルダーへのファイルの保存)は、ユーザーがすでに身近に感じているコンセプト(たとえばオフィス)を導入して、コンピューターという概念に慣れてもらうために開発されました。

チャットUIは、ユーザーがまるで1や0などの機械的なものではなく、人間と話していると感じる言葉遣いや文字のニュアンスに焦点を当てています。

Mailchimp(編注:マーケティングメールの配信サービス)がコピーライターのためにVoice and ToneStyleGuideとして公開しているように、「チャットUIデザイナー」もボットの声がどのように聞こえ、各々のコンテキストでどのようなトーンが適切かを考える必要があります。

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Mailchipmが顧客のキャンペーンを送るときは、「おもしろおかしくしてください」とコピーライターに依頼すればユーザーは満足できますし、彼らも安心してコピーを書けるでしょう。しかし、なにか問題が起こったら、深刻そうなトーンで懸念を示す必要があります。ストレスが溜まっている人たちに冗談を言わないようにしなければいけません。

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Chatbotは、ピザを注文する20歳の人と話すとき、どのようなフレーズを使うでしょうか。高齢者が処方薬について問い合わせたい場合とどう違うのでしょうか。

若者と高齢者という2つのタイプのユーザーは、視覚的なデザインや期待する会話のトーンも異なります。前者はさわやかで楽しいほうが好まれる一方で、後者はそっと静かで安心させるように正確でなければいけません。あるいは何か別のデザイン、トーンなのかもしれません。このようなことは研究によって裏付けられているはずです。

チャットUIのペルソナを構築することは、デザインを考えるためにユーザーのペルソナを作ることと同じぐらい重要なのではないでしょうか。

トーンの一貫性が鍵

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ボットを開発する多くのスタートアップは、ペルソナを構築するためにコメディアンや脚本家を雇っています。多くの人が好むレストランを見つける「LouBot」を作るために、アメリカのコメディアン、Louis C.K.にお金を払うスタートアップを想像してみてください。さまざまなシナリオを通じて一貫したキャラクターを構築することに関連するので、凝縮した効果あるコピーを書く以上のことになります。

TVドラマの脚本家がいかに主人公の内的、外的なペルソナを作り上げるか、いかにその主人公が各エピソードの状況に対応するかを考えるのと同じようなことです。主人公はどのように反応し、何を言ったり言わなかったりするのでしょうか。

人間のためのデザイン

マイクロソフトの失敗作とも言える実験的なAI、Tayの人種差別的な失言はチャットボットに限られたものではありません。アルゴリズムを介したインタラクション全般にまでおよんでいます。たとえば、数年前にEric Meyerが経験した、Facebookの今年のまとめ(編注:愛娘を喪ったMeyerさんのフィードに「今年の思い出の瞬間を振り返って見ましょう!」と愛娘の写真が表示されたできごと)を思い出してください。コンテキストは重要ですが、情感と常識が二の次になってはいけません。

取り残されるかもしれない人びと

ビジュアルなUIはサービスの後ろに隠れ、本当のUXが本質的な価値となるようになるでしょう。アップルのような物理的な製品やビジュアルデザインのリーダーであり、長期間、優れたサービスを生み出せずにいる会社が、これからどのように変化していくのか気になっています。これまでモバイルでのビジネスモデルは「うまく作られた滑らかな長方形の端末で、ユーザーが1日に千回くらいタップして操作する、緻密にコントロールされたアプリの枠組み」の中で運用されてきました。しかし、今後、それはどれだけ長く続くでしょうか?

脚本のような一見すると「非デザイン」の仕事は、ますますデザインの範囲に取り込まれていくでしょう。そして、この時代にデザイナーでいられることは楽しいことだと言えます。

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HowdyはSlackで自分のボットを作れるBotkitを最近リリースしました。いまが、未来の会話をデザインする良いスタート地点かもしれません。

私たちは、ブランドに性格を吹き込んで擬人化する傾向があります。ブランドは擬人化されたキャラクターを維持するために、多くのお金を費やしています。

そう考えると、多くのボットスタートアップが、ただ単に人間と感じられるボットではなく、コンテキストと一致するようなボットのペルソナを作るためにコメディアンや脚本家を雇うことにも、何の驚きもありません。

(原文:5 Things Every Designer Needs to Know About Conversational UIs

[翻訳:丸茂千郷]
[編集:Livit

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