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カヤックのフロントエンドエンジニアだった比留間和也さんがVR開発に熱狂する理由

2017年02月05日 23時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが、注目のクリエイターが日々どんなことを考えているのか? オン/オフの両面からお話を伺います。
第3回は、フロントエンド開発界隈では「えど」さんでおなじみの比留間和也さん。これまでのキャリアと、公私ともに現在注力しているというVRの魅力をお話いただきました。

電話オペレーターの派遣から始まったキャリア

小島 僕が比留間さんを知ったのは2011年ごろだったと思うんですけど、jsdo.it (※)を見ていたら、「すごいものを投稿している人がいる」って。そしたら、「あ、この人カヤックの人だ」って気づいて。

比留間 (笑)

小島 これがカヤックか! と思って。それから、比留間さんが共著で執筆された『すべての人に知ってほしいスタイルシートの基本原則』も読んでいます。
ところで、比留間さんはネット上では「えどさん」って呼ばれていますけど、なぜ「えど」なのですか?

比留間 ちょっと前までは「ハガレンのアレ(※)ですか?」って言われることが多かったんですけど。もっと古いアニメで『カウボーイビバップ』(※)って覚えていますか?

小島 いや、僕の世代の作品じゃないですよね?

比留間 僕もど真ん中の世代ではないんですけど、たまたま見ていて。その中に「エド」っていう女の子がいて。コンピューターに強い、主人公側のキャラクターなんですけど、自分もこうなりたいなって思って付けたのが、「えど」というハンドルネームだったんです。それからずっと、ネットの世界では「えど」を名乗っています。

比留間 和也(ひるま かずや) VRエンジニア/Unityエンジニア。カヤックにてHTMLファイ部のリーダーを務めたのち、iOSエンジニアとして自社サービスアプリ開発に携わる。その後、趣味のVRコンテンツ開発が高じてVR開発をメインとした活動を開始。現在はOculus Rift、HTC Vive向けVRコンテンツ開発を主業務としている。技術全般記事をQiitaにて公開中。またUnity限定の記事をはてなブログにて公開中。

小島 僕が知っている比留間さんといえば、カヤックで働いていたころなんですけど、社会人としてのキャリアのスタートは?

比留間 最初は、NEC系の会社に派遣社員として入社して。企業間のデータ通信をしている会社で、データの不整合があって送信に失敗したときに、電話で問い合わせを受けて回答する仕事でした。ただ、もともとプログラミング関係の仕事に興味があったので、業務効率化のためにちょっとしたコードを書き始めて。自分の資料をHTMLで管理したり、電話番号を毎回調べるのが大変なのでPerlで検索するシステムを作ったり。

しばらくしたらそれが上司の目に留まって、「せっかくだからみんなに公開して使わせよう」という話になって、いわゆるエンジニアリング部門に異動になりました。

小島 そのあとカヤックに入社したんですか?

比留間 Webに興味を持ったので、知り合いのつてで受託系の制作会社に入りました。最初はデザインを学んで、案件をこなしていって。HTMLのコーディングを始めてしばらくしたときに、『CSS-EBLOG』を書き始めて。

比留間さんが運営しているブログ「CSS-EBLOG」はCSSやHTMLを書いている人なら一度は目にしたことがあるであろう有名ブログ。

小島 CSS-EBLOG、懐かしいですね。さっき見たら、「あ、まだ残っている」と感動しました(笑)。

比留間 情報が古いのでだいぶPVは減ってはいますけど、意外といまでもアクセスはありますよ。

で、ブログを書いていたら、それを目にした派遣時代の同僚が声をかけてくれて、SNSの運営会社に入社しました。そこから紆余曲折をあって、そのSNSが終了するタイミングで、カヤックですね。
CSSNiteに参加したら、カヤックのエンジニアと「あ、あのブログの人」って知り合って。「マークアップエンジニアが足りないからウチにぜひ来てください」って入ったら、その半年後に彼女が辞めるっていう(笑)。

小島 デザイナーからエンジニアの道をへ、ちょっとずつ歩んでいったわけですね。

比留間 もともとはプログラムが書きたかったから。SNSの運営会社ではDAUが1万人ぐらいのサービスを運営していたんですけど、最終的には従業員が4人になっちゃって。営業が1人、企画が1人、フロントエンドが1人、クライアント(アプリ)が1人。あとは社長。

小島 (笑)。

比留間 フロントエンドを自分1人で担当していたので、キャンペーンの企画をFlashで実装して、その告知ページを自分でデザインして、コーディングして……といった感じでやっていましたね。

カヤック時代の思い出は他社が投げ出したヘルプ案件

小島 カヤックに入ってからはフロントエンドエンジニア一筋で?

比留間 ちょうど渡りに船だったんですけど、カヤックに「HTMLファイ部」(※)という部署ができて。部署名のおかげもあってJavaScriptを絶対必要とする案件が多くて、必然的にJavaScriptを書くフロントエンドエンジニアになっていく……という流れですね。

小島 2011〜12年ごろはちょうどWeb業界が移行期でしたよね。僕はもともと異業種で働いていて、2011年ごろはスクールに通ってWebデザインの勉強をしていたんですけど、スクールでやったことがこれからは全然通用しなくなるな、と思って。

転職活動しようにも、当時のスキルだと仕事が全然なかったんですよね。それで、トータルの技術力は低くても、「HTML5やCSS3に特化したら食っていけるかも」と思って、実際にそう動くと転職できた時期でしたね。

カヤックではいろいろな案件を担当したと思いますけど、印象に残っているものは?

比留間 どれか1つと言われたら絶対挙げるのが、ある美少女ゲームのサイトですね。PS Vitaで出る新タイトルに合わせたプロモーションサイトのオーダーだったんですけど、カヤックではちょっと珍しい案件で。もともとは別の制作会社が受けたのに間に合わなくて、だから助けてくれっていう、要はヘルプ案件だったんです。

小島 面白いもの作ってくれ、じゃなくて。

比留間 じゃなくて、ヘルプ。もう、その時点で炎上が確定しているわけです。ある意味でそれが楽しい、面白いってことだったんですけど、ほかの会社が数カ月やっても完成してなかったのに、発売日はもう来月です、っていう。いやいや(笑)。

小島 しかも、リリースは延期できない。

比留間 Webサイトのせいでソフトの発売日を遅らせるわけには絶対いかない。1カ月後に何とか間に合わせるために、1週間ぐらい泊まり込みで集中的に開発して。そのとき作ったのが、当時流行っていたパララックスを使ったサイトでした。サイトを見たユーザーにスクロールしてもらって、スクロール量の合計値が目標を超えたらインセンティブがもらえるキャンペーンで。

小島 サイト訪問者のスクロール量をサーバーに全部送って計算するってことですか?

比留間 そうです。水着の画像を配布すると告知したら、数日で達成されちゃって。急遽、画像を追加したんですけど、それでも結局、数日で達成されちゃいましたね。それが一番記憶に残っている案件です。キャンペーンなのでサイトはもう残っていないですけど。

小島 パララックスでおもしろい見せ方をするサイトが流行りましたよね。カヤックが得意だった印象があります。

フロントエンドからiOSエンジニア、VRの世界へ

小島 そのあと、2014年ごろ、久々に比留間さんにお会いしたら、「最近はiOSアプリの開発をやっている」と。

比留間 そうですね。

小島 ネイティブゲームが流行って、「もうブラウザーじゃなくてアプリだね」と言われて僕もXcodeやUnityを触っていた時期があるんですけど、Facebookをたまたま見ていたら、比留間さんがやたらとiOS開発の入門記事をシェアしていて。それも、週を追うごとにシェアする記事がだんだん難しくなっていく(笑)。

比留間 当時、カヤックではHTMLファイ部のリーダーとしていろいろな案件を回していたんですけど、あるとき役員から、「カヤックの未来について話し合わないか」ってランチに誘われて。「お、なんだろう」と思ってついて行ったら、「実は君にiOSアプリの開発をやってもらいたい」と。

小島 いきなりですね。

比留間 何の前ぶれもなかったし、これからWebGLに力を入れていきたいと考えていたので、いったんは断ったんですけど、「Lobi(※)の大事な時期だから」と言われて。

カヤックが運営する「Lobi」

小島 クライアント案件ではなくて、Lobi事業のためにiOSエンジニアが必要だった。

比留間 当時のLobiの事業部長が、もともと僕をHTMLファイ部に引き上げてくれた人なんですよ。尊敬していたので、もう承諾するしかないな、と思ってはいました。ただ、その時点ではiOSは一度も触ったことがなかったんです。「1カ月後に戦力になってくれ」と猶予をもらって、「iOSとは何ぞや?」というところから始めました。

小島 そこからはほかの仕事はせずに、iOSだけで?

比留間 とにかくiOS。何ができるのか毎日調べていたので、小島さんはちょうどそのときに僕のFacebookを見たんでしょうね。

小島 不思議だなと思って見ていました。で、また久々にお会いしたら、今度はVRをやっている、しかもUnityじゃなくてWebVR(※)にはまっていると。

比留間 そのときは完全に趣味ですね。最近はまたUnityしか触っていなくて、VRコンテンツばかり開発しています。
本業の会社ではVR関連の仕事をしているんですけど、プライベートでも友人とチームを作って、いろんなものを作っています。
最近だと、ニコニコ生放送の「マックスむらい部」をお手伝いしました。ニコ生中にマックスむらいさんにVRホラーゲームをやってもらう、という企画なんですけど、ただの実況にならないように、ちょっと仕掛けを入れたいってことになって。
ニコ生の「あちらのお客様からシステム」って知っていますか?

小島 いや、知らないです。

比留間 視聴者がニコ生主に差し入れができる仕組みで、たとえばあるアイテムの差し入れが10人を超えたら、VRホラーゲームの中のギミックを1つ増やす、といって仕掛けを入れてみたり。そういった仕組みを友人と一緒に作ったり、昨年はほかにもいくつかコンテンツを作って、ニコニコ超会議やVR系のイベントに出展したりしましたね。

後編に続く

[撮影:野口 彈]

KEYWORD

jsdo.it(↑)
面白法人カヤックが開発した、JavaScript、HTML5、CSSのソースコードの投稿共有コミュニティ。2010年にリリースされ、30万近くのコードが投稿されている。2016年3月にjsdoit株式会社に事業譲渡された
ハガレンのアレ(↑)
荒川弘のコミック作品『鋼の錬金術師』の主人公の1人、エドワード・エルリックのこと。
カウボーイビバップ(↑)
1998年にテレビ東京系で放送された、サンライズ制作のアニメ作品。監督は渡辺信一郎。2071年の太陽系を舞台に、宇宙船「ビバップ号」に乗って旅する乗組員の活躍を描く。「エド」はエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世の通称で、天才ハッカー少女という設定。
HTMLファイ部(↑)
HTML5ブームに乗って2011年に設置された、カヤックの社内組織。HTML/CSSコーディングや、JavaScriptプログラミングなどを担当するフロントエンドエンジニアが所属していた。
Lobi(↑)
カヤックが運営するスマホゲームに特化したSNS。チャットで攻略情報を共有したり、メンバーを募ったりできるほか、対応しているタイトルではゲームの実況録画ができる。
公式サイト:https://web.lobi.co/
WebVR(↑)
Webブラウザーからヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使ったVRを利用できるようにする技術仕様。HMDの位置や動きを取得してJavaScriptで操作できるようにするAPIが用意されている。比留間さんが執筆された記事に詳しい。

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