読モみたいな、あこがれの経営者がいてもいい——ハヤカワ五味さんのキャリア論

2017/04/18

小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが、注目のクリエイターが日々どんなことを考えているのか? オン/オフの両面からお話を伺います。
第4回は、株式会社ウツワ代表取締役のハヤカワ五味さんに、趣味のゲームの話で盛り上がった前編に続き、会社経営とこれからのキャリアについてお話いただきました。

不採用通知が2回来た

小島 趣味の話は止まらないので、ここからは少しまじめなお話を。ハヤカワさんはこの春、大学4年生ということで、就職活動はしていますか?

ハヤカワ 一応、活動はしていて、一番行きたいゲーム会社にエントリーシートを出したら、不採用通知が2回来ちゃいました。さすがに2回はないよなぁって、落ち込んで。

小島 え? 不採用通知が2回?

ハヤカワ そう、2回。しかも1回目の不採用通知はエントリーシートを送った3日後に届いて、「いやいや、早すぎでしょ」って(笑)。
インターン生向けの選考では本名でエントリーしたのに、なぜか「ハヤカワ五味」と知られていて。なるべく素性がばらないようにと思ってめがねをかけて行ったんですよ。なのに、「そういえば君、洋服を作っているらしいね」と言われて。「そんな話しましたっけ?」みたいな。

小島 (笑)。

ハヤカワ きっと、新作情報とかをすぐつぶやいちゃう人だと思われているんだろうな。あと2〜3社受けてダメならそこでもうすっぱり、やっぱり経営が向いているんだと思いたいですね。

小島 じゃあ就活は……。

ハヤカワ ちょっとあきらめぎみ。正直なところ、就職するかどうか自体も要検討なんですけど、同世代がいまどんな動きしているか知りたくて。同世代と知り合っていたほうが10年、20年経ったときに面白いじゃないですか。

小島 就活で仲よくなった人とは、そのあともずっとつながっているって言いますもんね。

ハヤカワ 美大ってコミュニティがすごく狭いので、もう少し外に人脈を広げたいですね。特にゲームが好きなのでゲーム業界の人と知り合いたいな、と。

小島 就職しなかった場合、大学を出てからやってみたいことは?

ハヤカワ五味さん

1995生まれの21歳。東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科3年/広告専攻、株式会社ウツワ 代表取締役。 高校1年生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にワンピース等の《GOMI HAYAKAWA》、2014年8月には妹ブランドにあたるランジェリーブランド《feast》を立ち上げ、2016年夏には累計販売枚数1万枚突破。

ハヤカワ 会社を続けてもっと大きくしていきたいのはもちろんですけど、そのうえでクリエイターを育てることにもう少し注力してみたいですね。
美大にいると、就活でみんな「やばいやばい」ってなっている。本当は作家として食べていきたいけど、奨学金を返さなきゃいけないから就職するって人がいたり、上手なイラストを描くのに、イラストレーターを続けてもいいのか不安を抱えていたり。
私は才能がある人がうらやましいんですよ。だからこそ、そういった人たちが本当に力を発揮できる状況を作りたい。クリエイターを育てていくことは会社のブランディングにもなるし、もちろん仕事を振ったりもできるだろうし、相互にいいことがあると思うんですよね。

ハヤカワ五味が選ぶ経営本3冊

小島 ハヤカワさんが今後経営を続けていくにあたって、どういったことを勉強されてるのか知りたかったので、最近読んでらっしゃる本を持ってきてもらいました。

本

ハヤカワ 3冊持ってきました。まず、KADOKAWAの取材だから川上量生さんの『ルールを変える思考法』。

担当編集 ありがとうございます。

ハヤカワ この本、すごくよかったです。もともとドワンゴの友達におすすめされた本ですけど、ゲームと仕事の近いところを解説してくれているので、私みたいにゲーム脳の人にはとてもわかりやすくて。経営ビジネス書はあまり好きじゃないんですけど、この本と、横井軍平さんの『枯れた技術の水平思考(書名は『決定版・ゲームの神様 横井軍平のことば』)』はすごく読みやすかったし、そこからもっと彼らの考え方に触れたいなって思いましたね。

小島 未読なので読んでみたいと思います。次は、伊賀泰代さんの『採用基準』ですね。この本は?

ハヤカワ この本とその後に出た『生産性』は最近流行りの本ですけど、尊敬している経営者の柳澤大輔さんにおすすめされて読みました。リーダーシップについてひたすら書いてあるんですけど、自分はどう振る舞ったらいいか?どういった考え方を持つと、会社や仕事を自分事化できるか?といった、普段自分がうまく言語化できていない部分が書かれていて、納得しながら読めましたね。
ベンチャー企業って最初の10人くらいまででは下働きの人、ただ作業しかできない人は要らないじゃないですか。それぞれがリーダーシップを持って自分でどう動いたら会社に貢献できるか、考えて動く。「会社は学校じゃねえんだよ」ってブログが以前話題になっていましたけど、会社は別に勉強するためにある場所じゃない。お金をもらって勉強するのは、大きな会社で10年、20年とずっと働いてもらう前提だからこそできる仕組みであって。
ベンチャー企業で必要なのは、それぞれ自分で考えて動き、コスト(給料)に対する対価をきちんと払える人。じゃあ、しっかり成果を出すことってどういうこと? といったことが書かれています。
私は、会社ってどこまで行っても人に尽きるなと思っているので、悩んでいるときに出会えてすごくよかったです。ベンチャーを経営する上ではすごく必要な本だと思います。

ハヤカワ五味さん

小島 3冊目は『#GIRLBOSS(ガールボス)』ですね。

ハヤカワ 米国にハヤカワ五味の上位互換みたいな人がいて(笑)。

小島 サブタイトルに「万引きやゴミあさりをしていたギャルがたった8年で100億円企業を作り上げた話」ってありますね。

ハヤカワ このサブタイトルがすべてを表していて、まったく起業なんてする気はなかった女性が経営者として成長しながら、8年で年商100億円のECサイトを作っていく実話なんですけど。実はオチがあって、昨年末にこの会社「Nasty Gal」は破産申請したんですよ。

小島 本が出たあとに破綻しちゃったんですか?

ハヤカワ 2015年に出た本だから、成功して本が話題になって、おそらくそのあとに元雇用者からの訴訟とかが相次いで……。だからいま読むと盛者必衰的な話としても味わい深い本です。

小島 ここからまた2、3年後にどうなっているか気になりますね。

ハヤカワ その後のエピソードを踏まえると気持ちも引き締まりますし、成功するまでの道のりにも共感する部分がありました。この手の本だときれいな部分しか書かなかったり、逆に苦労話ばかり書いたりすることが多いけど、この本はあったことを淡々と書いている感じで。これからECや小売、女の子商材を扱ってく人には、何かしら共感できる部分があると思います。

選択肢を増やすための「あこがれの人」になりたい

小島 では最後の質問を。ハヤカワさんはいま21歳ですよね。僕は今年31歳になるんですけど、僕と同い年ぐらいのときにどんなふうになっていたいですか?

ハヤカワ ちょうど10年後ですね。私自身はすごいデザイナーにはなりたくてもなれない、自分にはもっと向いている仕事があると思って会社を経営しているんですけど、やってみて1つ気がついたことがあって。それは自分が尊敬できる、ワークスタイルにあこがれられる女性がなかなかいない、ってことなんです。そういった人物になれたらいいな、と思っています。
私の上の世代、いまの30代、40代は、女性の社会進出が叫ばれて出ていった結果がじわじわ出始めている時期じゃないですか。でも、恐らくみんな「ちょっとしんどそうだな」って感じている。だからこそ私の同世代でも、「とりあえず主婦を目指すか」みたいな、最初からリタイア前提で働く人が少なくないんですよね。心から主婦に魅力を感じているならいいんですけど、妥協の選択、消去法だとしたら解せなくて。
みんな読者モデルにはあこがれるじゃないですか、それと同じで、経営者にあこがれるみたいな選択肢があってもいい。別に起業を勧めるわけでもないし、働くことが100%正しいとも思っていないんですけど、選択肢が増えてくれたらと思うからこそ、「あこがれの人」になりたいです。

小島 ありがとうございました。いままでのBORDERLINEで一番大人なインタビューでした。

ハヤカワ え? マジですか? うーん、どんなコーナーなんだろう(笑)。

[撮影:後藤利江]

小島芳樹

小島芳樹

ソーシャルゲームやUIデザインの会社にてWebデザイナー・フロントエンドエンジニア・ディレクターを経て、現在は都内のIT企業で企画やアライアンスを担当。2016年より「エンジニア」+「デザイナー」=「テクニカルクリエイター」のためのWebメディア「テクニカルクリエイター.com」を立ち上げ、IT・Web技術やデザインについての最新トレンドを発信している。 最近の趣味は水泳、トライアスロンへの出場を目指して練習中。

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