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ネット黎明期を駆け抜けたデザイナー・坪田 朋さんのかっこよすぎる半生

2018年01月29日 08時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが、注目のクリエイターが日々どんなことを考えているのか? オン/オフの両面からお話を伺います。
第7回のゲストは、Onedot株式会社のCCO坪田朋さん。Webデザイナーからキャリアをスタートし、ライブドアやDeNAでデザイン責任者を務めるなど、活躍を続ける坪田さんのこれまでのキャリアと、「1年で1カ月は長期で休む」というライフスタイルを伺いました。

プロレーサーを目指していた時代からネット業界へ

小島 今回のゲストは、坪田 朋さんです。

坪田 Onedot(ワンドット)株式会社でチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)をしている坪田です。よろしくお願いします。

小島 今日は坪田さんがこれまで取り組んできたこと、ちょっと恥ずかしいところも含めて、お話を聞かせていただければと思います。

坪田 ちょっと、そこのドア閉めてもいいですか(笑)。

Onedot株式会社のCCO坪田朋さん。

Onedot株式会社のCCO。デザイン会社Basecampの代表。東京で活動するサービス設計を仕事にしているデザイナーです。

小島 まずご出身から教えてください。

坪田 生まれは東京の世田谷ですが、物心つく前に引っ越してからずっと横浜育ちです。小中高も横浜で、高校卒業後はバイクのプロレーサーなりたくて、モトクロスとかエンデューロをやっていました。

小島 バイクのレーサー? じゃあ、高校卒業後はプロになるための学校へ進んだのですか?

坪田 「そうはいってもプロになれないんだろ」って親に言われ続けて、仕方なく自動車関係の専門学校へ通いました。学校へ通いながらも、ずっとレースをしていましたね。

小島 プロのレーサーってどうやったらなれるんですか?

坪田 たとえば日本だと、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)がライセンスを発行しているんですけど、ライセンス=プロではなくて。メーカーにスポンサーになってもらって初めてプロと呼べるんです。とても狭き門で、プロになりたかったけどやっぱりなれずにあきらめた、というのが22、23歳ごろ。なので、若いころはバイクレーサーを目指す、バイク馬鹿でした。今でも50歳になったらダカール・ラリーに出ようと思っています。

小島 ダカール・ラリー?

坪田 昔、パリダカール・ラリーってあったのを知っていますか? パリダカって呼ばれていたバイクレースで、僕らが中高生のころはタバコのCMで使われていたり、F1とかラリーがめちゃくちゃ流行っていて、子どもたちの憧れでした。50歳くらいになったらそのダカール・ラリーにプライベーターとしてに出るのが夢ですね。

小島 参加費を払えば参加できるんですか?

坪田 出られるけど、費用が1000万円ぐらいかかります(笑)。

小島 それで50歳になったら……なんですね。

坪田 そうそう。だから仕事はもういいなと思ったら、ダカール・ラリーに出ようと思っていて。その計画をずっと温めているのが僕の人生です。ラリーに出ないと人生終われないから(笑)。

小島 めちゃくちゃかっこいいですね、それ!

Onedot株式会社のCCO坪田朋さん。

小島 22、23歳ぐらいまでバイクのことをやっていて、そのあとWeb業界のお仕事を?

坪田 専門学校では自動車科だったのでCADを学んでいたんですよ。昔からモノを作るのは好きだったので、設計から組み立て、メンテナンスもそうだし、旋盤とかも使っていたんですけど。僕が22歳ぐらいのころはちょうどデジタルで何かを作るのが盛り上がっていた時期で。mixiやライブドアといったIT企業が一気に出てきて、これからはインターネットの時代だろう、ということでネット業界に入りました。

小島 もともと専門学校でパソコンにと触る機会があったんですね。

坪田 そう。専門学校を卒業して1年ぐらいはフリーターをしていたんですけど、バイクでプロになれなかったから自分の武器はパソコンしかなかったし、当時のネット業界ってまともじゃない業界だといわれていて(笑)。その代わり、学歴は関係なくて入れる業界でした。

小島 ライブドアに入ったのは2社目ですか?

坪田 最初はデザイン会社でのアルバイトから。CADの経験があったので、PhotoshopやIllustratorを触り始めて、DTPもWebも何でもやる会社で修行しました。そのあと、転々としてライブドアですね。

小島 当時はいろんな仕事をされていたと思いますけど、肩書はデザイナー?

坪田 そうですね。当時はコーディングまでしていたので、Photoshopでの画像の補正から、バナーの作成、Movable Typeでのサイトの構築まで一通りやっていましたね。

小島 ライブドアに入社したのは、ライブドア事件の前ですか?

坪田 事件後ですね。自社サービスがやりたかったので、メディア系の会社を探している中で、livedoorディレクターブログをみてモノ作りに向かう姿勢に共感して入社しました。

小島 ヤバそうだと思わなかったですか?

坪田 むしろ、エンジニア中心で真摯にモノを作っている姿勢のがすごく伝わっていたので、そういう環境のほうが楽しそうに思えて。

小島 ライブドアではどんなことを?

坪田 ライブドアブログの3代目のフルリニューアルを担当しました。事件後、芸能人ブログの多くがアメブロに移転してしまったので、ライブドアブログは2ちゃんまとめブログや個人のALPHAブロガーにスポットを当てて「個人を応援しよう」という方向にシフトしたときだったんですね。その時に、マス向けではなくブログでご飯を食べていく人達向けに機能を追加したり、記事が投稿しやすいようにCMSを改修したり、広告還元システムを作ったり、といった一連のディレクションを経験しました。

小島 そのころはもうデザイナーというよりは……?

坪田 いわゆるWebディレクターという肩書でしたね。

小島 ライブドアブログが落ち着いたあたりでDeNA(ディー・エヌ・エー)へ?

坪田 そうですね。ライブドアブログやったり、新規サービスを作ったりして、ライブドアには4年ぐらい在籍したかな。iPhoneが国内で発売されて、これからはスマホだろうと思っていたタイミングで、モバゲーのスマホ版を作る仕事があると誘われてDeNAヘ転職しました。

小島 当時のモバゲーにはまだスマホ版はなかったのですか?

坪田 スマホでアクセスするとモバイルサイト(いわゆるガラケーサイト)が表示されていました。本当はアプリを作りたかったんですけど、まずはスマホに最適化したWeb版から作りました。当時はスマートフォンのUI/UXって、やっぱりまだ日本だとそんなに洗練されてなかった。そこでustwo(アストゥー)と組んで、デザインシンキングのフレームワークやUXデザインの原理原則を学びましたね。

大企業のアセットでイノベーションを起こしたい

小島 モバゲーのあと、DeNAではどんなことを?

坪田 やっぱり新規事業が作りたかったので、comm(コム)というチャットサービスを数人で立ち上げました。盛大に失敗しましたけど(笑)。同じころDeNA全体のデザイン責任者になったので、プロダクトを作りつつ並行してDeNAのCIリニューアルを進めて。

小島 にっこりマークのロゴに変わったときですね。

坪田 そうそう。グローバル全体でのCI刷新だったので、8カ月ぐらいかかりましたね。その後はほぼマネジメントが仕事になって、社内のデザイナーを1カ所に集約したデザイン戦略室を作り、1年ぐらいかけてデザイン組織を作っていきました。

小島 当時は採用活動も活発にやっていたと思いますが、かなりのデザイナーを採用したのでは?

坪田 週3日ぐらい、たぶん300人ぐらいは面接して、50人ぐらいは採用したんじゃないかな。イベントやって、いい人から話を聞きたいと連絡があったら大阪でも福岡でも京都でも飛んで行って。

小島 すごいですよね。で、そのあとが……。

坪田 BCG  Digital Venturesです。僕は、前々から日本の持っているアセットは希少価値が高いと思っていて。イノベーションはシリコンバレーで産まれる事が多いけども日本にだってイノベーションの材料はたくさんある。例えば、電化製品や車、それこそバイクも一昔は日本がリードしていた分野で、それらのデジタル化で世界にイノベーションを起こせる。大企業が持っているアセットを使ってチャレンジができる数少ない機会だと思って、2016年4月にBCG Digital Venturesに入りました。

小島 BCG Digital Venturesはどんな会社なんですか?

坪田 ボストンコンサルティンググループ(BCG)の組織の1つで、クライアントと一緒に新しい事業もしくは会社を作る組織です。デジタルに関した新規事業を立ち上げたいが、社内からはリソース投下できず、外部会社に丸投げで発注するのも少し違う。そこで、クライアントメンバーと一緒にデザインシンキングのフレームワークを使って事業を創出していきます。たとえば僕がいまCCOとして参加しているワンドットの場合は、ユニ・チャームとBCGDVのジョイントベンチャーですが、中国市場向けにデジタル事業を作るというミッションで始まりました。

小島 クライアントに「こういう事業やりませんか?」と提案するということですか?

坪田 元からあるアイディアを提案するんじゃなくて解決したい経営課題がある企業に対してデザインシンキングのフレームワークを使って、4週間くらいでイノベーションを起こすアイデアとそのMVP(Most Value Product)を作ります。今回の場合だと、実際に中国に行って現地ユーザーのユーザーインタビューを行い、アイディアを考えてそれをスケッチ化をして、またユーザー調査を実施してニーズがあるのかコンセプトテストをずっと繰り返す。
2016年の7月から中国に行って、北京と上海と広州、3都市回ったんですけど、それぞれの都市で20人ぐらいずつにユーザーインタビューをして、育児に対しての課題を探りました。家庭訪問して話をしつつ、家の中の写真を見せてもらったり、朝から晩まで行動観察させてもらったりして。

小島 みっちりやるんですね。

坪田 で、集約したペルソナを作って、こういう人に対して課題を解決できるのは何だろう? というところからアイデアを考えていく。付箋に書き出していくと800個ぐらい出るんですけど、そこからプロトタイプに落とし込むものを15個に絞って、4個に絞って、2個に絞って、1個に絞るところまで、フレームワークに含まれています。

小島 最終的にはその最後に残ったのを事業化していく?

坪田 そうですね。今回は育児の動画メディア事業に投資する結論になり、ジョイントベンチャーとして会社を作ることになりました。だから、ユニ・チャームとBCG Digital Venturesの共同出資モデルで運営しています。僕は2017年8月まではBCG所属で、9月1日からは完全にOnedotの人間になりました。

小島 BCG Digital Venturesの事例としては、日本では1つ目ですか?

坪田 これがジョイントベンチャーとしても1つ目。ようやく立ち上がった(笑)。

小島 でも、そうとう濃厚な約1年。

坪田 そうですね。立ち上げ期の半年前後は中国にいたので、結構大変でしたね。

小島  Onedotのサービスはどんなものですか?

坪田 Babilyという育児領域に特化した分散型の動画メディアです。日本育児のノウハウや知識、技術は体系化されていてアジアの中でもレベルが高い。これだけ育児に対して知識として洗練されている国って、そんなにないと思います。例えば離乳食のレシピがこれだけ揃っていて、きちんと国家資格を持った管理栄養士がレシピの裏付けをきちんと論理的に話せる国って、あまりない。それを本でもいいけど、動画にしてわかりやすく、中国や香港、台湾の育児に関わる人たちに提供することを目指しています。

小島 昨年は医療系のメディアで騒動があって、ネットに載っている情報をどこまで信じていいのか、という問題もありますよね。

坪田 Babilyのコンテンツは、専門家がすべて監修しています。あと中国人の方の爆買いって聞いたことあると思うんですが、購入して持ち帰っても説明書が日本語なので使い方が厳密にはわかんないんですよね。おむつの使い方はなんとなく知っていても、間違った使い方をしていたり、もっと効率の良い使い方がある。育児をサポートする用品やその使い方も含めて輸出したいと考えています。

年に1カ月ぐらいは休みたい

小島 ここまで仕事の話をしていただきましたが、ここからプライベートも聞かせてくださいというコーナーです。事前にもお伺いしているのですが、坪田さんの趣味を教えていただけますか?

坪田 やっぱり最初にお話したバイクですね。それから旅行。

小島 お仕事でも中国に半年ぐらい滞在していたとのことですけど、もともと海外に行くのが好きなんですか?

坪田 1年の間で1カ月くらい休むんですよ。2016年はアメリカに1カ月ぐらい滞在しました。

小島 いいですね(笑)。転職の間に、ですか?

坪田 転職の間もそうだけど、年末に1カ月休む。転職の間はニューヨークとラスベガスとフロリダに行って、昨年末はカンボジアに行きました。

小島 そんなに? ホテルに泊まるんですか?

坪田 ニューヨークではホテルに泊まったし、あとはAirbnbとかドミトリーみたいなところとか、そのときの安いところかな(笑)。旅行が趣味というよりは、オンオフがはっきりしてるので、土日もずっと働いてるけど、その代わり年末にリフレッシュも兼ねて1カ月ぐらい休んでたいんですよね。

小島 今まで行ってよかった国は?

坪田 1番は難しいけど……やっぱり、最近だと中国よかったです。よく仙人が出てくるようなシーンで代表的な黄山という世界遺産があるんですけど、そこもよかったし、万里の長城もよかった。あと西湖とか。中国ってアジアで世界遺産の数が1番でおもしろいですよ。

小島 世界遺産といえば、カンボジアにもありますよね。

坪田 カンボジアもよかった。アンコール遺跡のある、シェムリアップは直行便が無いから行くのが大変なんですけど、一度は行ったほうがいいですよ。アンコールワットなどのメインどころも楽しいんですけど、ちょっと離れた奥地の村みたいなところをトゥクトゥクみたいなバイクで走っていったり。観光客も少ないけど人気がなくてメンテされていない遺跡が昔のまま残ってるんだなぁ、みたいな感動が得られたり。

小島 僕が行ったことある国は、シンガポールとマレーシア、ベトナム、アメリカぐらい。アメリカといっても、ディズニーワールドに行っただけなんで(笑)。

坪田 アメリカも良いですよね。ラスベガスは5回ぐらい行きました。ラスベガスはホテルごとにシルク・ドゥ・ソレイユの公演をやっているんですけど、たぶん全部見ましたね。

小島 ほかに思い出に残っている国はありますか?

坪田 バリが好きですね。バリって、山と海がちょうどいい具合に融合されている小さな島じゃないですか。2日間海に泊まって、半分は山に泊まるとか、スクーターで走り回れるし。

小島 僕は最近、ベトナムに行ったんですけど。

坪田 ハノイ?

小島 ダナンとホイヤンっていう世界遺産の街、それにニャチャンっていうリゾート地に行ってきました。ニャチャンはロシア人にとってのハワイみたいなノリなので外国人が多くて、観光地って感じ。ダナンはまだ全然田舎なんですけど、めちゃくちゃリゾート開発している。日本も東京オリンピックに向けてインバウンドとか今、がんばっていますけど、ダナンの勢いに勝てないような気がしました。

坪田 そうなんだ。今度行ってみようかな。

小島 来年、再来年あたりはすごいことになっていると思いますよ。

(後編に続く)

[撮影:伊東武志]

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