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「作ったものをユーザーに届けるまでがデザイナーの責任」クックパッド池田拓司さん

2016年11月03日 23時00分更新

文●野本纏花

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毎日の献立を考えなければならない生活者の悩みを解消してくれる、日本最大のレシピサービス「クックパッド」。サービス開始から約20年。その間、急激な成長を遂げきた同社で投稿開発部長を務めているのが、デザイナーの池田拓司さん。時代とともに変化するデザイナーの役割と必要なスキルとは?

エンジニアに認めてもらうために身につけた実装のスキル

——池田さんの経歴とクックパッドに入社された経緯を教えてください。

もともとパソコン通信をしていたこともあり、多摩美術大学在学時のアルバイトがきっかけで、インターネットの世界に足を踏み入れました。どちらかというとコンテンツやサービスに興味があったので、卒業後はニフティに入社。ポータルサイトと有料課金コンテンツの制作ディレクションをしていました。

ニフティに3年あまり勤めたところで、ブログやAdsenseなどが登場してきました。技術を自分の身につけないとこの先やっていけなくなると感じて、当時まだ7人しかいなかった「はてな」に転職して7年勤めました。

はてなのユーザーは、当時は、主にインターネット上でクリエイティブな表現や活動をしている人たち。それに対し、クックパッドのユーザーは自分や家族のために毎日の料理をつくっている一般の生活者。そのユーザー層の違いに惹かれてクックパッドに転職して、5年目になります。

——池田さんは現在、投稿開発部の部長とのことですが、一方で名刺には「デザイナー」との肩書きもあります。

職種としては前職時代も現在もずっとデザイナーですね。ただ、デザイナーといっても仕事の中身は変化しています。

はてなに入社したころはMovable TypeやWord Pressが盛り上がっていて、そのときHTMLやCSSといったフロントエンドのスキルを身につけました。エンジニアとデザイナーが2人で組むことが多かったのですが、その頃はHTMLやCSSを誰がやるといったような定義は曖昧でした。

エンジニアリングドリブンでサービスが作られていたことが多かったので、「バックエンド作っておいたから、あとはいい感じにデザインしといて」というのが、当時の開発スタイルとしてよくありました。当時のはてなはほとんどがエンジニアだったので、初めてのデザイナーとして認めてもらうためには、コーディングができるなど開発の中でポジションを作りつつコミュニケーションをとる必要があったんです。

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1978年福岡県生まれ。多摩美術大学を卒業後、ニフティ株式会社、株式会社はてなを経て2012年4月よりクックパッド株式会社。クックパッド全体のサイト設計やデザイン、またSassを使った自社Frameworkの構築などのコーディング面にも関わる。現在、VP of Product Design 投稿開発部部長 デザイナー

——フロントエンドの知識はすべて独学で?

はい。場数を踏まなければならないので、会社だけではなくプライベートでもいろいろ作って公開していましたね。

フルスタックよりもある程度の「深さ」がほしい

——クックパッドでの現在の池田さんの役割はどのようなものでしょうか?

僕がクックパッドに入社するときにやりたかったことが3つあって。1つ目は、よりクックパッドらしいデザインや機能をユーザーに提供すること。2つ目は、デザインを仕組み化することで、デザインの効果を高めること。最後が、デザイナーがサービス開発で、より活きた働き方をしていけるような体制を作ることなんです。

投稿開発部は、人員はアルバイトを含めて20人ほど。そのうちほとんどがエンジニアで、デザイナーが4名、ディレクターが1名という構成です。エンジニアはおもに副部長が見ていて、僕はデザイナーのマネジメントと、ユーザーに届けるものの最終責任とiOSアプリの今後の方向性や計画などを担当しています。

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クックパッドiOSアプリで最近リリースした「みんなの投稿」画面

——池田さんは「フルスタックなデザイナー」といえると思いますが、クックパッドのデザイナーもフルスタックな人材が多いのでしょうか。

僕はスペシャリスト同士がコラボレーションすることこそ、会社で働く楽しみだと思っています。どちらかと言えば両方できるに越したことはありませんが、必ずしもフルスタックを求めているわけではありません。最近では特に、デザイナーもエンジニアリングも、ある程度の深さがないと、世に残るものを作れないのではないでしょうか。

とはいえ、今年の新卒で入ったデザイナーは3人ともフルスタックな素養があるので、「何でもいいから、自分で最後まで作ってみるように」という指導はしています。

——最初から最後までやってみる経験が必要だと。

デザイナーだからといって、「モックアップを作った」「絵を描いた」で終りではいけない。もちろん、家具職人が素材の知識を持っていないと仕事にならないのと同じレベルで、デザイナーにはイメージ通りのプロトタイプを作るスキルが必要です。世に送り出す、自分で開発ができなくてもいいけれどユーザーに届けるところまできちんと責任を持つ、という意識が大切なんです。

そのためには技術のことや開発プロセスをちゃんと分かっていることが大事です。もし、自分で技術的な領域まで踏み込むのであれば、とにかく自分で手を動かすこと。間違えてもいいから、最初は数を増やすこと。設計やコードがきれいかどうかは、プロのエンジニアに任せればいい。

「ディレクターが仕様だけ決めてお願いします」はおかしい

——クックパッドといえば、デザイナーが所属する「ユーザーファースト推進部」の取り組みが有名ですが、7月には廃止したとの発表がありました。

クックパッドではデザイナーはユーザーファースト推進部に所属し、プロジェクトごとに派遣するスタイルを採っていました。一定の成果を挙げましたが、一方で「依頼者側がユーザー体験についてデザイナーに任せてしまいがちになる」という課題もあった。

現在は「ユーザー体験は職種に関係なくみんなで考えるべき」という考えから、サービスやプロジェクト単位の組織にエンジニアとデザイナーが所属する体制になっています。

クックパッド開発者ブログ」より。現在のクックパッドはBのスタイルの組織

ユーザー体験もデザイナーがイニシアチブをとるといいとは限らずエンジニアが活躍できるケースもあるし、それぞれの職種の人が共通言語を持って意見を出し、話ができればいいと思います。特に、技術もデザインも分わからないディレクターが仕様だけを決めてお願いします、みたいなのはそもそもおかしい。

ユーザー体験の感覚は人それぞれ違うので、会社全体でいいサービスを作っていくためには、みんなが自分ごととして携わるカルチャーにならなければいけないと考えています。

——エンジニアにもっとデザイナーのことをわかってもらいたいと思うことはありませんか?

クックパッドのエンジニアはわかっている方だと思いますし、デザイナー的観点を持っているスタッフが多くいるため、そんなにズレはありません。ただ、デザイナーの仕事は、期間で管理できるものではなく、いつアイデアを思いつくかはわからないので、新しいプロジェクトでガントチャートを引くときには「デザイナーの仕事に始まりを設定する必要はない」とは伝えています。いつアイデアが生まれるかわからないので、締め切りだけをはっきりさせておけば、同時進行で考えていってもいいと思っています。

——池田さんの経験を振り返って、デザイナーの役割はどのように変化していると思いますか?

インターネット業界においてデザイナーの担う役割が広くなっていて、一方でより専門的な職種としても捉えられているように思います。そのため、上流工程に強い人もいれば、iOSのコードも書ける人もいるし、エンジニアとコミュニケーションをとるのが上手な人もいる。デザイナーにも多様性が出てきていると感じています。

時代の流れとともに、自分の得意なことを伸ばしていけるといいんじゃないでしょうか。

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