Webサイトのリニューアルに取り組むとき、何から手をつけますか? 現状サイトのサイトマップを描く。アクセス解析でよく読まれているページを確認する。ライバルサイトを研究する。そんな方が多いかもしれません。

でも、Webサイトの本来の目的はビジネスを成功させること。Webサイトだけを設計しても、ビジネスが目指すゴールは達成できません。そこで私が考案し、実践・啓蒙しているのが、「コンセプトダイアグラム」というビジュアライズ手法です。

たとえば、地ビールの製造・販売を手がける「サンクトガーレン」は、

  • 情報が増えすぎて見つけにくくなった
  • デザインが時代に合わなくなった

といった理由から、Webサイトのリニューアルに踏み切りました。その際にまず実施したのが、以下の「コンセプトダイアグラム」による顧客視点の要件整理です。

サンクトガーレンのコンセプトダイアグラム

同社のビールを飲んだことがある「経験者」と、飲んだことがない「未経験者」に分け、「レベルUP」というゴールに至るまでのユーザー行動を4つのステップで表現。それぞれのステップに至る矢印の上に、サイトのコンテンツやマーケティング施策をマッピングしたものです。

このコンセプトダイアグラムをベースにサイトをリニューアルし、データを活用したコンテンツやマーケティングの改善を続けたところ、3年後にはオンラインの売上が2.7倍にまで増加しました。オフラインの売上も順調に増えています。

上司と顧客を味方にする「コンセプトダイアグラム」

コンセプトダイアグラムでは、企業が望むユーザーの行動・気持ちの変化と、取り組み(施策・機能・コンテンツ)との関係を図解によって整理するのですが、それ以上の効果があります。

たとえば、Webサイトで設定する指標(コンバージョン)は「会員登録」「資料請求」「購入」、目標は「月100万PV達成」「会員登録純増数UP」「Webでの売上150万達成」など、直接的で数値化しやすいものを設定しがちです。しかし、これらはどれも、Webサイトの運営目線です。ユーザーにとっては、PV・純増数・売上は何の関係もありません。

「コンセプトダイアグラム」では、企業理念や戦略、競合と比べた優位性などを加味した上で、企業が望む顧客の変化をユーザー視点で図解します。

コンセプトダイアグラムのステップ

たとえば前に挙げた地ビールメーカーでは、日本では一般的ではない「エールビール」を普及させたい、という起業時の想いを受けて、「エールビールの良さを知り、上手に飲めるファンになる」というユーザー視点のゴールを定義しました。

コンセプトダイアグラムはカスタマージャーニーマップとも似ていますが、ビジネス視点の理念や戦略をユーザーの視点に裏返して表現する点が大きく異なります。そのため、以下のようなビジネス的なメリットがあります。

関係者間でサイトの位置付けを統一し、施策を立てられる

Webサイトの戦略や位置づけを抽象的な言葉だけで表現すると、なんとなく分かったつもりになりますが、実は細かい点で認識がズレていることがよくあります。

Webサイトの戦略や位置づけがずれていることもある

コンセプトダイアグラムを作成することで、抽象的な戦略が見える形になり、具体的な施策との溝を埋めるための気付きが得られます。

コンセプトダイアグラムで理解のズレを埋める

文字による表現に加えて、箱の大きさ、位置、色、形、順番、粒度などの要素が概念の分解・具体化につながるため、個々のメンバーによる理解のズレも明らかになります。この理解のズレを埋めることで、サイトの位置付けを統一し、方向性の定まった施策が立てられるようになります。

Webコンテンツのバランスを改善する

ユーザーがゴールにたどり着くまでの気持ちや行動の変化を表すステップの間をつなげる矢印は、企業が望む顧客の変化を表します。この「望む変化」を促進するためにすべきこと、つまりWebの施策や機能やコンテンツを矢印の上に重ねていきます。全体を俯瞰しながら、個別のコンテンツやマーケティング施策を設計・実施し、評価できるようになります。

個別の施策やコンテンツを全体像にマッピングした結果、手薄のエリアが見つかった場合は、そのエリアの強化が必要だと分かります。逆に、同じ位置づけのものが集中した場合は、統合や廃止による予算の再配分を検討すべきでしょう。

また、マッピングによって、図の上に配置するべき場所が定まらない、役割が多すぎて1カ所に絞りきれないなど、コンテンツのコンセプトがあいまいだと分かることもあります。役割の絞り込みや統廃合を検討します。

つまり、ユーザーがステップをたどり、ゴールできるWebサイトが設計できるようになるのです。

効果測定の要件定義になる

こうした、メンバー間の認識合わせと戦略・戦術の具体化は、実は副産物です。「コンセプトダイアグラム」は、Web解析の要件定義、つまりユーザーのどんな変化を把握するためにどんなデータをどのように取得して分析すべきか、何を読み取って改善アクションにつなげていくかを決めることを主目的としています。

「ウチは単価が高いので検討期間が長いはずだ」「テレビCMを流すとアクセスが増える」など、普段から誰もが想像して想定していることを導き出して主張しても、解析の費用対効果は高まりません。

当たり前のことを分析しても評価されない

また、ページビューや訪問回数(セッション数)、直帰率、滞在時間など、多くのアクセス解析ツールが標準的に提供している指標は、「取得しやすい」「歴史的な経緯で広まった」などの理由でツールが便宜的に提供しているだけです。どんなサイトでも使える万能な指標ではありません。

PV、セッションなどの指標は万能ではない

「コンセプトダイアグラム」は、アクセス解析担当者だけでなく、経営者、マネージャー、プランナー、ディレクター、デザイナーなどWebに関わる人たちが、抽象的な「ユーザーの意図」や「ビジネスゴール」のように分かったつもりになりがちなことを分解と図解によって、整理・議論・共有し、そのゴール実現のために必要な施策とその成果をビジュアライズすることで、ビジネスの成果が出るアクショナブルな「Web解析」を設計・運用するために役立ちます。

意味のあるデータを活用する

このLessonでは、コンセプトダイアグラムを作成し、マーケティング活動に活用するポイントを学習していきましょう。

清水 誠

清水 誠

Webビジネス歴21年。凸版印刷、Scient、SapientにてUXの分野を開拓。楽天でWebアナリティクスを全社展開。2011年に渡米し、米国AdobeにてAnalytics製品(旧SiteCatalyst)の企画・開発・啓蒙に携わる。2014年に帰国し、電通アイソバーのCAOに就任。 インテリジェンス ビジネスソリューションズ戦略顧問。一般社団法人 ウェブ解析士協会 顧問。サンクトガーレンCMO。2008年文部科学省アドバイザー委員。2014年Web人賞受賞。

このLESSONは、次の書籍を再構成したものです。
[清水式]ビジュアルWeb解析

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