経済産業省より以下の調査結果が4月下旬に公表されました。
経済産業省「平成28年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」
http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170424001/20170424001.html
ポイントのひとつに「国内BtoC-EC市場が15兆円を突破」が挙げられています。
調査結果は、ニュースリリース記事、調査結果要旨、報告書の形式で公表されています。報告書は130ページ超のPDFで非常に読み応えがあります。
今回は、報告書からBtoC-EC市場の気になるデータをピックアップします。
調査概要と市場定義について
本調査は毎年実施されていて、平成28年度版(2016年度)で19回目です。調査方法は、「公知情報調査、業界団体および事業者ヒアリング調査を実施」と記載されています。
「BtoC-EC市場」の定義は以下の通りです。
本調査では、BtoC-EC市場規模を企業と消費者間でのECによる取引金額とする。ここでの消費者への販売とは家計が費用を負担するものを指し、消費財であっても個人事業者の事業用途の物品購入は原則として含めない。
インターネットオークションやフリマサービス等、インターネットを用いて個人間で取引を行うCtoCや、電子申請、税の電子申告等、政府がサービスを提供し、個人が対価を支払うGtoCについては、本調査の対象範囲外としている。
EC金額は、販売サイドの金額(販売額)を捕捉している。したがって、国内に拠点を置く企業が国内で販売した製品・サービスの額を算入対象としており、国内から海外への販売(輸出)は含まれるが、海外から国内への販売(輸入)、国内事業者による海外生産の販売分、製品が国内を経由しない取引の金額は含めない。
この前提のもと、数字を確認していきましょう。
15兆円はどれくらいの規模なのか?
ニュースリリースには「国内BtoC-EC市場が15兆円を突破」とあります。15兆円とは、いったいどれくらいの規模なのでしょう? いくつかの数字と比較して、イメージします。
- 他の主要な流通チャネルとの比較他の主要な流通チャネルと市場規模を比較します。各チャネルの平成28年の販売額は下図の通りです(経済産業省 「商業動態統計」より)。
商業動態統計の定義には、「販売額には、店頭販売のほか、インターネット等による通信販売等の販売額も含まれる」とあるため、厳密な比較にはなりませんが、BtoC-ECの市場規模は、スーパー(約13兆円)の1.2倍、コンビニエンスストア(約11.4兆円)の1.3倍、百貨店(約6.6兆円)の2.3倍と非常に大きいことがわかります。
- 広告費との比較
EC市場規模とインターネット広告費の関係です。
電通 「2016年 日本の広告費」では、インターネット広告媒体費(制作費)が初めて1兆円を超えたとされています。
インターネット広告媒体費の全てがBtoC-EC向けの広告ではないことは明確ですが、仮に比較してみると、インターネット広告費はBtoC-EC市場のおよそ8.7%の比率となります。 - その他
アマゾン、2016年の年間売上15兆円:北米のPrimeとAWSが貢献で安定してきた黒字経営
https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20170204-00067359/上記の記事には「2016年の年間(1~12月)の売上高は前年27%増の1,359億8,700万ドル(約15兆円)」とあります。
アマゾン1社の全世界での年間売上と、日本のBtoC-EC市場規模はほぼ同じくらいということですね。
市場規模の大きいカテゴリーは?
BtoC-EC市場の内訳です。本調査では、BtoC-EC市場を大きく3つの分野に分けています。
2016年の市場規模では、「物販系分野」がもっとも大きく約8兆円(全体の52.9%)、次いで「サービス系分野」5.3兆円(同35%)、「デジタル系分野」約1.8兆円(同11.7%)となっています。
報告書では、さらに物販系分野(9つ)、サービス系分野(6つ)、デジタル系分野(5つ)の計20のカテゴリー(=市場)に細分化した数字も掲載されています。そちらをみていきましょう。
まずは市場規模順に並べてみました。あえて、分野ごとではなく全て並列にしています。
- 1兆円以上の市場は計7市場、物販系分野が多い
- 「旅行サービス」が3兆円と突出して大きく、全体の2割を占める
- 「オンラインゲーム」市場が、デジタル系分野の中では突出しており、1.3兆円(8.6%)を占める
旅行は単価も高く、ネット予約も一般化しているため違和感はないですね。改めて、オンラインゲーム市場の大きさに驚きます。
市場規模が伸長しているカテゴリーは?
前年からの伸び率順を並べました。
- BtoC-EC市場全体の伸び率は9.9%
- 伸び率上位(20%以上)の4市場は、「有料動画配信」、「飲食サービス」、「理美容サービス」、「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」といずれもデジタル系分野、サービス系分野の市場(1,000億~3,000億円程度の市場が年20%以上の伸びを示している)
- もっとも伸び率が高い「有料動画配信」は、77.4%と突出している
「有料動画配信」について、報告書に以下の記載があります。
2015年と比較し市場規模が拡大した理由は、アマゾンプライムビデオ等の付加価値サービス型SVOD(Subscription Video On-Demand)を市場規模に含めたためである。(中略)
付加価値サービス型のSVODとは映像配信がメインのサービスではないものを指し、メインのサービス料金を支払うことによって映像配信を副次的に利用できるスタイルのSVODである。
純粋な伸びとは捉えられないかもしれませんが、「変更をした事実」に着目すべきがと思います。
金融サービス市場を除けば、いずれの市場も前年より拡大しています。3兆円ともっとも規模の大きい旅行サービス市場も、前年より5.3%伸びています。
EC化が進んでいるカテゴリーは?
物販系分野は、EC化率も算出されています。EC化率=BtoC-ECの市場規模/BtoCの商取引市場規模*100です。
「どれだけネット購入が進んでいるか/遅れているか」を示す指標ですね。
下図は、カテゴリー別のBtoC-ECの市場規模とEC化率をグラフにしたものです。
- EC化率は、物販系全体では5.43%
- 「事務用品、文房具」、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」では3割前後、「書籍、映像・音楽ソフト」では25%程度のEC化率
- 「食品、飲料、酒類」はEC化率2.25%と低い
「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」についてEC化率の変化を確認すると、2014年から2016年で5.8ポイントも上昇していました。
一方、家電大型専門店の商品販売額は同期間で約8%減少していました(経済産業省「商業動態統計」より)。家電大型専門店からネットへのシフトが進んでいそうです。
「書籍、映像・音楽ソフト」は、「ほとんどネットで購入している」という人もいるのではないでしょうか。デジタル分野のカテゴリー「電子出版」、「有料動画配信」、「有料音楽配信」へのシフトも進んでいくのかもしれません。
「食品、飲料、酒類」は、現在のEC市場規模も比較的大きく、かつEC化率が低いのでポテンシャルが大きく感じられますが、EC化率が低いです。理由として以下が挙げられていました。
- 一部の生鮮食品をはじめ、ECに不向きな商品が含まれること
- 食品をECで買う文化が根付いていないこと
ネットスーパーなどがさらに活用されると、EC比率は少しずつ上がってくるのでしょうか。
以上、「電子商取引に関する市場調査」の報告書から気になるデータをピックアップしてみました。
報告書には、数字だけでなくその背景やトレンドなど定性的な情報も記載されています。またBtoC-EC市場だけではなく、CtoC、BtoB-EC市場、越境ECについてもまとめられています。
EC市場の動向をおさえる上では、欠かせない資料ですね。
(記事提供:D2Cスマイル)