Opera developerバージョン38 は、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)クライアントを初めて搭載したブラウザーです。世間一般向きの機能ではありませんが、ブラウジングを大きく変えることになるでしょう。
VPNとは?
VPN(Virtual Private Network:仮想専用ネットワーク)は、家庭または企業内ネットワークを公衆回線を経由して拡張します。例えば、家庭のルーターにつながっている2台のパソコンがあるとします。PC1、PC2としましょう。2台とも物理的に専用ネットワークにつなげてあるので、お互いネットワーク上で認識でき、プリンターなどの共有が可能です。
たとえばPC2を海外へ移動したとしましょう。とてつもなく長いLANケーブルがない限り、同じネットワークに接続できませんから、PC2は別のプライベートネットワークに接続することになります。
VPNクライアントソフトウェアをインストールすれば、離れたネットワーク同士をバーチャルネットワークで接続できるようになります。PC1とPC2は再び同じネットワークに接続できます。システムの通信内容が傍受されないよう、ネットワークは暗号化によって守られています。
OpenVPNやFreelanなどのオープンソースのソフトウェアも利用できますが、個人でVPNの設定をするのはちょっとハードルが高いと感じるかもしれません。幸い、ExpressVPN、 Buffered、IronSocketなど、たくさんのVPNサービスが普及してきました。月々の費用がかかり、通信速度に制限が設けられている場合がほとんどですが、個人でVPNを設定するよりもとても簡単です。
VPNはブラウジングにどう役立つ?
一言で言うと、プライバシー。閲覧先のサイトに直接接続するのではなくVPNに接続しているので、ISPからみれば接続はVPNただ1つのみです。メリットは以下のようになります。
- IPアドレスが隠れIPとなる
閲覧先のサイトへのリクエストはVPNを経由してサーバーへ送信されるため、サーバー側はVPNのIPアドレスを取得できますが、個人のIPアドレスは確認できません。 - サイトの閲覧履歴が隠される
暗号化されたプライベートワークなので、他人がサイトの閲覧履歴を見られません。公衆無線LANスポットや非暗号化された無線LANスポットからアクセスしても、他人にのぞき見られる心配がないのでネットで入金だってできます。 - ファイアウォールの無効化
多くの国、組織、学校では、Web全体へのアクセスを規制していますが、VPNへアクセスできれば、どこへでもアクセスできます。 - バーチャルロケーション
VPNを経由して外部へアクセスすると、位置情報に束縛されません。たとえば自分のいる国では閲覧制限されているアメリカ国内のみ閲覧可能なコンテンツでも、アクセスできます。ただし、NetflixやBBC iPlayerなど地域限定のサービスを受けるには、まだ技術な取り組みが必要です。
VPNはプロキシサーバーとはどう違うの?
VPNに似た方法で、プロキシサーバーを経由してリクエストを送受信することで、プライバシーを強化できます。VPNとプロキシサーバーの主な違いは、VPNの構造はもっと複雑になっているということです。トラフィックは必ず暗号化されており、アクセス元のIPアドレスなどのデータの受け渡しがないことです。
ブラウザーベースVPN
ひょっとすると、すべてのアプリケーションやシステム全体に対するVPNは不必要かもしれません。その場合は、HolaやTunnelBear、Betternetなどのエクステンションを使って、ブラウザーの閲覧履歴を隠せます。サービスの内容によって費用も違ってきますし、通信速度に影響する場合もあります。
Opera38内蔵VPN
2016年3月、SurfEasy買収後に発表されたOpera developerバージョン38は、無料かつ無制限のVPNクライアントがネイティブ実装された、初のブラウザーです。現在はデベロッパー版のみの対応ですが、標準版も数カ月後には公開の予定です。
VPNを設定するには、メニューバーからWindowsは「Settings(設定)」、Mac/Linuxは「Preferences(環境設定)」を選択し、「Privacy & Security(プライバシー&セキュリティ)」を選択します。「Enable VPN(VPNを有効)」がチェックされていることを確認してください:
アドレスバーにVPNアイコンが表示されます。アイコンをクリックすると、通信状況を確認したり、VPNロケーションの変更ができます。現在はアメリカ、カナダ、ドイツのみで使えますが、2016年後半の安定したバージョンの公開時には他の地域も追加される予定です。
VPNを使った場合、通信速度は通常のネットワーク速度よりも遅くはなりますが、明らかに違うかどうかは、自分で確かめてみてください。Operaの場合、サーバー側でサイトをレンダリングするOpera Miniや、ダウンロード前にデータ圧縮をしてくれるTurbo Modeなど、VPNに対して素晴らしいインフラが提供されています。まあ、中国のユーザーが、国家レベルで規制しているファイアウォールを回避できることに気がついた時に、現在提供しているインフラだけでVPNの速度を支えられるのか、これはまた別の話ですが…。
プライベートブラウジングの新時代?
Web業界のプライバシーに関する提案は、いままでは期待以下のものがほとんどでした。DNTヘッダーなどの取り組みを順守したのは業界の一部で、ユビキタスSSL暗号化への移行はほとんど実行されていません。
プライベートなネットワークでかつセキュアなブラウジングは、今やもう新鮮なことではありません。確かに技術的には簡単になりましたが、多くのユーザーの知識と能力がまだ追いついていません。Operaは、主力ブラウザーで最初の、誰でも使えるVPNを内蔵したブラウザーです。
今後、他の企業がOperaの試みに続くのか、興味深いところです。Operaはノルウェーが拠点なので、アメリカ・EU加盟国の(ほとんど)司法権外にあります。アメリカ国家安全保障局(NSA)だったら、グーグルやアップル、マイクロソフトに、同じようなサービスの提供を許すでしょうか? やましいことがなければ、ブラウジングのプライベート化はするべきではない、と反論する人たちもいるのでしょうけれど…。
(原文:Opera VPN: the Future of Private Browsing?)
[翻訳:Eri Noda]
[編集:Livit]